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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1869号 判決

控訴人

有限会社八木興業生コン

右代表者

八木茂夫

控訴人

梅沢喜久夫

右両名訴訟代理人

亀岡宏

被控訴人

金子笑子

外三名

右四名訴訟代理人

鈴木亜英

外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは、各自、被控訴人金子笑子に対し金二六〇万一七六〇円、被控訴人金子啓一、同金子美穂に対し各金二一〇万一七六二円、被控訴人金子力太郎に対し金一〇〇万円及びこれらに対する昭和四八年八月三〇日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人らの控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを七分し、その三を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

この判決は第二項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一本件事故の発生及び態様

本件事故の発生及びその態様に関する当裁判所の判断は、次に付加、訂正するほか、原判決のこれに関する判断と同一であるから、原判決理由説示中右部分(原判決一四枚目裏四行目冒頭から同一七枚目裏一行目まで)を引用する。

原判決一五枚目表八行目の「そして」から同裏四行目の「ものとみなし、」までを次のとおり改める。

「〈証拠〉によれば、本件事故直後行われた司法警察員による実況見分の際加害車を検査したところ、加害車のサイドブレーキはかかつていたが、第三ブレーキはかかつていなかつたこと、これらのブレーキに機能の障害はなかつたこと、控訴人梅沢が駐車したままで加害者を離れてから加害車が微速で動き出すまで三〇分ないし四〇分位経過していたこと、控訴人梅沢は加害車を離れる際加害車の前後輸のタイヤのいずれにも歯止めをかけなかつたことが認められ、これに当事者間に争いのない控訴人梅沢が加害車のエンジンを作動させ、生コンタンクを回転させたまま駐車していたこと及び加害車の駐車していた道路の勾配を考慮すれば、控訴人梅沢は加害車の右駐車に際し、サイドブレーキ及び第三ブレーキをかけたものの、第三ブレーキについてはロツクが不完全であつたため、加害車のエンジン作動及び生コンタンクの回転による車体の振動により徐々にロツクが戻り、ついにその制動力を失うに至つたものと推認される。」〈中略〉

二控訴人梅沢の過失及び栄二の死亡との因果関係

一に引用ないし認定したところに基づき考えるに、控訴人梅沢が加害車を駐車した道路は、勾配の急な坂道であつたのであるから、加害車のような重量のある自動車を駐車しかつこれから運転者が離れる場合には、ブレーキを完全にかけ、かつタイヤに歯止めをするなどの制動措置を十全にしておかないと、当該自動車が自走し、その結果人の生命身体を害することのあるのは十分予想しうるところである。したがつて、右の場合には運転者は自動車が自走しないよう右のような制動措置を講じておくべき義務があるところ、控訴人梅沢は、加害車を右坂道に駐車するに当つて、これを怠り、サイドブレーキ及び第三ブレーキをかけたものの、第三ブレーキのロツクを完全にせず、かつタイヤに歯止めをしておかなかつたため、加害車が自走を開始し、約1.45メートル坂を下つたところで道路の右側路肩が崩壊し、そのため加害車が約1.3メートル下の竹林に転落して栄二を圧死させるに至つたものであるから、控訴人梅沢に過失があり、右過失によつて栄二が死亡するに至つたものというべきである(控訴人梅沢に過失があるというために必要とされる予見可能性については、加害車が自走を開始することのあること及び右自走によつて人の生命身体に害を加えることのあることにつき予見が可能であれば足り、本件事故の具体的因果のすべてにわたつて予見可能であることを要しないものと解すべきである。)。

控訴人らは右梅沢の過失と栄二の死亡との間の因果関係を争い、栄二の死亡は同人の自損行為であると主張する。

よつて考えるに、一般に本件のようなコンクリート・ミキサー車が坂道を自走降下することによつて惹き起される事故としては、まず車輛との衝突によるものが考えられるが、現実に生ずる事故の形態は様々であつて、いわば典型的というべき形態のもののほか、あるいは衝突を避けようとした者、さらに場合によつては車輛の自走によつて齎らされるべき人的、物的損害を防ごうとした者が様々の形で被害を受けることも十分に考えられるのであつて、これらはいずれも予測可能の範囲に属する事態というべきである。それ故本件においても、路肩の崩壊及び車輛の転落が、その自走及び車輛の重量以外の原因によると認めるべき特段の事情のない限り、自走の開始を齎らした控訴人梅沢の過失と栄二の死亡との間に因果関係があると認めるのが相当である。

ところで、路肩崩壊の直前に栄二が加害車右前部に乗つたことはすでに認定(原判決理由二の(一)の3)したところであるが、しかし、栄二が右のように加害車に乗らなかつたならば路肩の崩壊が起らなかつたであろうことをうかがわせるような証拠は何もないばかりでなく、かえつて先に引用ないし認定したところによれば、(一)路肩の崩壊は加害車の自走の開始及び一旦停止の時点から極めて短時間の内に生起したものと推測されるし、(二)加害車はコンクリートミキサー四トン車で、当時二トンの生コンクリートを積載していたのであるから、これらに照らせば、右路肩の崩壊は加害車の重量の負荷が決定的要因をなしたものと認めるのが相当である。そうすると、栄二が加害車に架乗したことによつて加害車の自走と栄二の死亡との間の因果関係が中断したなどとはいえず、本件において、前記特段の事情にあたるというべき事実は認められない(もつとも前判示の事実によれば栄二に過失のあつたことは否定できないが、それは賠償額の算定にあたり斟酌すべきである)。

よつて、控訴人らの右主張は採用の限りでない。

三控訴人らの責任

控訴人有限会社八木興業生コン(以下控訴会社という。)が控訴人梅沢の使用者であり、かつ、本件事故は控訴人梅沢が控訴会社の業務執行中に起きたものであることは当事者間に争いがない。

そうすると、控訴人梅沢は、不法行為者として民法七〇九条により、また控訴会社は、同法七一五条により、それぞれ本件事故によつて栄二及び被控訴人らに生じた損害を賠償する責任がある。

四損害〈以下、省略〉

(安岡満彦 山田二郎 堂薗守正)

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